終わらない夏。
　俺は一人で海に行きました。少し人気が減った秋の海は、いろいろな音が砂に吸収され、波の音と時折、飛来する鳥たちの鳴き声だけが聞こえている。

　どこにいるのか？
　なぜ、そこにいるのか？

　そんなことを思うのは、最初の数分だけで、まだまだ暑い日差しと海独特の湿気が身体を覆っていく。

　ただただぼんやりと海を眺めていると、いろいろなことが走馬灯のように駆け巡っていく。小さな悩みくらいであれば、この波がさらっていってくれる。大きな悩みは、その根源を探る手助けをしてくれるように感じる。よく“山は父、海は母”と言われるが、本当にそうなのだと思う。

　今、抱えている問題をいかにクリアするのか？自問自答の時間はきっと大切なのだと思う。ただ、日常の中で行うのはとても難しい。いろいろな音がありすぎる。出来るだけ、不要な音を排除し、抜け殻のように、その空間に自分を漂わせることが出来れば、幼少期の“あの集中力”が戻った気分になる。好きなことに没頭できる“あの集中力”は、どこから来てどこへ行ってしまうのだろうか。出来れば、いつでも戻ってきて欲しいものだ。

　日が傾きかけた頃、少しだけ言葉にはできない“何か”を見つけられたような気分になった。がむしゃらに砂浜を走る！みたいなことはしないけれど、きっと何かが背中を押してくれたのかもしれない。夕日に照らされた海岸は、今までとは違う表情で、しかし同じ波音を奏でている。

　明日はきっと今日の自分より、少し成長した自分に会えるのだろう。